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日本の大学入試プロセスを世界標準へ導くThe Admissions Office(TAO)セミナーレポート~オンライン出願実用化に成功した芝浦工業大学の事例

7月11日、世界標準入試システム「The Admissions Office」(以下、TAO:タオ)を紹介するオンラインセミナー(主催 株式会社アドミッションオフィス)が開催された。

セミナーは「入試を世界標準化する大学が増えるこれだけの理由」と題され、大学入試プロセスの世界と日本の状況比較や、芝浦工業大学と早稲田大学のTAO導入事例が説明された。

TAO導入事例では、2大学の入試担当者から、導入を決定した背景や、実際得られた効果やメリット、今後の課題などが紹介された。

当レポートでは、前編と後編に分けて、2大学の事例紹介を中心にお届けしたい。

前編となる今回は、芝浦工業大学 大学院入試での事例を紹介する。

世界標準になるために

まず、芝浦工業大学の事例紹介の前に、世界と日本の大学入試プロセスとTAOの概要について簡単に説明したい。

世界の大学の入試プロセスは、願書提出、選考書類の提出、合格発表など、関連手続きは全面的にオンライン化され、Webフォームで一括管理できるのが一般的である。
例えば、オンライン出願システムが整備されているアメリカでは、「Common Application」(Common App)という、大学入試オンライン出願システムがあり、現在アメリカの500以上の大学で採用され、広く普及している。

その反面、日本の大学入試プロセスは、大学・学部ごとに定められて細分化しており、書面郵送が必要とされることも多く、手続きが煩雑だ。
統一的な規格なども整備されていないため、世界の標準的な入試プロセスと比較すると日本は“ガラパゴス型”な入試プロセスになっている。

この特殊な入試プロセスは、国内の志願者はもとより、オンライン化された入試プロセスに慣れている海外の志願者にとって複雑に映り、海外の志願者が日本に留学したいと思っても、入試プロセスがわかりづらいため断念する、といった機会損失につながっている。

TAOは、この日本の特殊な入試プロセスからの脱却を目指すために開発されたWeb入試出願コンソーシアムであり、国内・海外問わず志願者がWebサイト上の1つのフォームから、複数の大学に出願できる仕様になっている。

日本語・英語対応で、大学独自の募集フォーム作成機能やCSVインポート/エクスポート機能も備える。
募集フォームは、海外志願者からの募集だけではなく、日本国内志願者のAO入試や多面的・総合的評価型入試など、さまざまな入試方式に対応するよう可変できる。
複数の入試方式を同時に実施している大学の実状に即した運用が可能だ。

芝浦工業大学でのTAO導入事例

芝浦工業大学 豊洲学事部大学院課 荒木芙希子氏から、芝浦工業大学 大学院入試のTAO導入事例が紹介された。

芝浦工業大学の大学院入試では、2017年度からTAOを段階的に導入し始め、現在では大学院入試のすべてをTAOによるオンライン出願で受け付けている。

また2019年度からは、大学院だけではなく、大学の一部学部 特別入試でもTAOによるオンライン出願導入を決定した。

芝浦工業大学大学院の入試制度は、修士課程は7専攻、出願総数は約650~700件強で、年間4回の試験を実施している。
これらに加えて、外国人特別入試や日本語・英語入試など、すべての入試方式を合計すると、年間で10種類以上の入試方式を実施している。

博士課程は2専攻、出願総数は約30件、年間2回の試験実施で、修士課程と比較すれば出願総数、試験実施回数は少ないが、必要書類が多く、留学生や社会人からの出願割合が大きいため、志願者の出願ケアにかかる作業コストは決して小さくない。

また、芝浦工業大学の大学院入試は、その実施形態に特色があり、修士課程、博士課程ともに、ペーパーテストがない。
修士課程では書類審査と口述試験のみで、筆記試験は2019年度から完全廃止。博士課程では、もともとプレゼンテーションと口頭試問だけで受験者の合否判定をしている。

このペーパーテスト廃止が影響して、受験者の合否を審査するために必要な出願書類が増加した。
出願書類は紙ベースであり管理コストも増加したため、TAOによるオンライン出願導入を推し進める大きな要因となった。

TAO導入前の悩み

芝浦工業大学では、ペーパーテスト廃止による出願書類管理コスト増大に加えて、海外学生の出願を募るための多言語試験対応や、入試方式の多様化・複雑化による試験回数増加などもあり、学内での管理・手続きが煩雑化していた。

入試対応にかかる作業コスト削減のため、オンライン出願システムの導入は、TAO導入以前からさまざまな製品を比較しながら検討していたが、いくつか課題がありどの製品も導入決定に至らなかった。

まず、オンライン出願システムの新規開発を検討したが、外注では、仕様変更のたびに追加費用がかかりとにかく高額。内製では、サイバー攻撃にも耐えうるサーバーの保守・運用など、セキュリティ上のハードルが高い。
パッケージ購入も検討したが、「大学院入試」向けといったパッケージは販売しておらず、システムの自由度が低く大学院入試には使えない機能もあり、導入に至らなかった。

TAO導入決定に至った理由~低コストながら自由度の高いカスタマイズ性

オンライン出願システムを検討している中、芝浦工業大学では学長経由で、TAOの前身となるシステム「UCA ASIA」の紹介を受ける。

また同時期、芝浦工業大学では、学内のあらゆる紙書類のペーパーレス化を推進しており、この取り組みも追い風となって、TAO導入へと進む。

荒木氏が検討段階で感じたTAOの大きなメリットの1つは、募集フォームを自由に設定できる高いカスタマイズ性だ。

大学や大学院入試のオンライン出願システムを外注でフルスクラッチ開発すると、入試方式や専攻ごとに専用フォームを作成しなければならず、一般的にフォーム数が増えるたびにコストがかさむ。
しかし、TAOでは中身の策定から募集フォームの作成まで大学の入試担当者で決定できる自由度の高い仕様になっており、作成できるフォーム数も大学で1つだけではなく、必要に応じていくつも作成できる。

芝浦工業大学の場合、入試方式によって出願時の提出書類も異なっていたが、TAOの複数の募集フォーム作成機能があれば柔軟な対応ができると判断した。

またコスト面でも、他のオンライン出願システムより安価で、大学入試と比較すると出願件数の規模が小さい大学院入試でも、十分にペイできる試算となり、TAO導入が決定した。

TAO導入により生じたさまざまな効果

ペーパーレス化による管理コスト激減

TAO導入によって得られたメリットとして、何よりもペーパーレス化による管理コスト激減が挙げられる。
これまで紙運用で発生していた印刷費、作業時間、人件費、さまざまなコストが大幅に軽減された。

また今年度は、COVID-19対応によりテレワーク体制になっていたが、自宅勤務であってもTAOなら入試対応作業が進められた。
そして先日行った2020年度秋期入試では、試験的ではあるが、全面的なオンライン試験を実施したので、出願受付から試験実施まですべてをペーパーレス化、オンライン化が実現できた。

海外から出願受付のトラブル激減

TAO導入以前は、海外の志願者からの出願受付は、事前にメールで志願者に対して必要書類のPDFを送信して、受け取った志願者にPDFの出力・EMSでの郵送をお願いしていた。
これは、入試担当者、志願者双方にとって非常に手間で、書類の送付ミスなどのトラブルが絶えなかった。

しかし、TAO導入後は、募集期間中、志願者に募集フォーム上で必要な手続きをしてもらえば出願が完了する。
海外の志願者も、国内の志願者と変わらない手続きで出願申請ができるようになり、トラブルが激減した。
これまでメールベースで志願者1人ひとりとコンタクトをとる必要のあった細々としたケアがなくなり、海外の志願者と1件もメールのやり取りが発生しないまま、入試の実施ができた。

出願書類受付時の混乱・ミス防止

これまでの紙ベースの管理では、同じ期間中に複数の入試方式の出願書類を窓口で受け取ることになるので、届いた書類を都度開封・確認しながら、志願者ごと、入試方式ごとの対応を取らないといけなかった。

しかし、TAO導入後は、フォーム上ですでに個別対応がされるので出願書類受付時の学内手続きがなくなった。

志願者への伝達漏れ防止や郵送コスト削減

TAO導入以前は、掲示板・メールや郵送などにより、志願者へ必要な情報を通知していたが、TAOにはメッセージ機能が備わっているので、情報伝達にかかる手間が減った。

また芝浦工業大学ではペーパーテストが完全廃止され口述試験の実施が増えているが、口述試験は集合場所・集合時間が志願者ごとに異なるため、志願者への通知内容が個別化される。
個別化される分、志願者への情報伝達は、確実に行う必要がある。

TAOには、コミュニケーションアプリ「LINE」のように、メッセージ受信者の「既読」状況の確認ができる。
必要な情報がちゃんと志願者に届けられているか確認できて、メッセージが未読の場合には志願者へ催促もできるので、必要事項の伝達漏れがなくなった。

その他、書面郵送にかかるコストもすべて削減された。

志願者や教員にも手間削減によるメリットが大きい

そしてTAO導入は、志願者や教員にとってもメリットがある。

志願者は、書類の発行・郵送によるコストもかからず、宛先住所の間違いによる送付ミスを防げる。
そして、募集期間中ならいつでもオンライン出願申込が可能だ。

教員のメリットとしては、TAOになると承認フローもオンライン化できるので、願書押印のための出校が不要になり、いつでもどこでも承認対応が可能になった。

TAO導入後に得られた課題

荒木氏は、TAOによるオンライン出願を導入して得られた課題としては、入試担当者で自由に募集フォームの設定ができる分、ノウハウがその担当者個人に集中しがちになる点を挙げた。
今後TAOを導入検討する大学は、入試担当者だけにノウハウを蓄積させて属人化しないよう避ける工夫が必要だと語った。

また、高校の卒業証明など、不正や虚偽への厳重な対策が必要とされる情報確認については、その情報が記載された書類や情報は、入試出願時ではなく合格後の入学手続き時に、学生本人から提出を求めるようにした。
出願時に必要な情報は、TAO上で取得できるテキストやスキャンPDFなどデータのみにして、厳重な確認が必要となる書類や情報の取り扱いは、TAOのシステムだけに頼るのではなく、入試担当者の運用でカバーする必要性も補足した。

以上、芝浦工業大学 大学院入試でのTAO導入事例紹介をお送りした。

続く後編では、早稲田大学でのTAO導入事例をお伝えしたい。

早稲田大学では、年々増加する外国人留学生数、学部・研究科ごとに細分化された入試プロセスなどの課題を抱えており、TAOがどのように改善に役立ったか、詳細が紹介された。